約4年前くらいだったと思う。
新宿3丁目副都心線。
横浜方面終電まで、あと5〜6本。
発作だ。
暑さと不安。水を2本、ポカリスエットを1本、頓服薬、携帯電話。
命綱はある。
しかし、乗れない。
いかんせん終電間際なので人が沢山いるし、大体がテンションの高い団体や酔っ払い。
わたしはそれが怖い。
でも、帰れなくなってしまったら困る。
必ず乗らなければならない。
だいたいこうなる。
乗ろうとしては乗れない。発射音が鳴れば降りてしまう。
密室になるのが怖い。
勿論、急行になんか乗れない。
私は周りを見渡した。
酔っ払いのサラリーマンとか、楽しそうなサークル集団。疲れて項垂れている人はダメだ。
話を聞いてくれそうな、忙しくなさそうな人、、、。
20代半ばくらいの女性がいる。携帯をいじっているが、今や携帯をいじって無い人はいないし。
何よりひとりだ。
焦ってもなさそうだ。
思い切って声をかけた。
これはほぼ私の当時喋ったままである。
「あの、、、突然すみません。怪しいものではなくて、あの実は私パニック障害って病気で、あの、すみません少し話聞いてもらっていいですか?」
彼女は落ち着いていた。
「はい。」
あ、これは冷たい系か?と少し怯んだが話を進めてみる。
「あの、私はパニック障害と言って、、不安で動悸がしたり、過呼吸になったり、精神的なアレで、頭がカーっとなったり、死ぬと思ったり、気を失うとか、、、
息も絶え絶え訳もわからない話をずっとお姉さんは静かに、たまに相槌をうって聞いていた。
「とにかくあの、帰らなきゃなくて、あの、密室、、、電車がこわくて、吐いたり倒れたりしないので、、、なんもしないので、、、あのお姉さんが降りるとこまででいいので、やだったらいいんです。全然言ってください。
あの、、、一緒に電車に乗ってくれませんか。」
するとケロっとした声で「全然いいですよ。」と答えた。
そして私とお姉さんは次の各駅停車に乗った。
大きい声が苦手な私が丁度聞き取れるくらいささやかに
「私、○○駅なんですけど、どこまで行かれるんですか?」
とお姉さんが発した。
「私は○○○までなんですが、○○までいていただけるだけで、、、本当にありがとうございます。すみません。一緒にいただけるだけで安心するんです。」
「よかったです。大丈夫ですよ。」
また駅に止まりだいぶ人が降りた。
「座りませんか?」
いつもなら立っている方が楽なのだが(というか扉前に居たい。)
お姉さんがあまりに落ち着いていて優しく言うので、並んで座った。
「飴どうぞ」
飴をくれた。
私は同じことばかり話していた。
「すみません本当に、いきなりこわいですよね、、、すみません本当に助かりますすみません、、、飲んだりとかもしてないんで、、、」
「大丈夫です。あ、私は飲んじゃってますけど。笑」
私は飴を握り締めながら
息がしやすいように飴をくれたのかも、とぼんやり思った。
まだ発作が厳しかったので吐き気がしたり飲み込んでしまったりするのが怖くて口にはしなかったがそんな気がした。
「すみません、本当に、、、」
「大丈夫ですよ。ってか私何もしてないですが、、、」
「いや、、、本当それだけで助かります。なんでも大丈夫って言っていただけるのが、、、落ち着くんです。パニック、、、カーっとなって、死んじゃうって思うんです。」
「よかった。大丈夫。死なないですよ。友達にもいるんです。」
意外とパニック障害は知られていない。落ち着きも、大丈夫の言葉も飴も本当にこの方のお友達にもパニックの方がいるんだと思った。
そうこうしているうちに彼女の下車駅に近づいた。私は早々に
「本当にすみませんでした。本当に助かりました。」
とたたみかける様に喋り倒した。
夏の発作は長く、まだ苦しかった。
すると彼女は
「私、行きますよ。一緒に。」
と言った。
「いやいやいや終電もありますし本当にご迷惑おかけしてしまって、、、本当に助かったんです大丈夫です。」
「でも全然私帰れますし。一緒に行き私ましょう。」
「いやいや、本当に、本当に大丈夫です。ありがとうございます。お気持ちだけで。本当に感謝してます。」
「そうですか、、、」
ドアが開いた。
彼女は、やっぱりサラッと
「大丈夫ですよ」
と言った。
電車は動き出し、彼女はしばらくこちらを見て帰っていった。
私はずっとお辞儀をして、見えなくなると座り直して水を飲んだ。
何故だか、1分前より落ち着いている。
放心状態のままあと二駅くらいになった。
もう大丈夫。帰れる。
私は飴を口に入れた。
私はこういういい人に出会うとブルーハーツの「いいやつばかりじゃないけど〜わるいやつばかりでもない〜」
とリンダリンダが流れてくる。
普段買わない甘い飴。家まで鼻水垂らしながら泣いて帰った。
ありがとう。あの飴のお姉さん。
覚えてますか?